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偶像町幻想百景。
何だか思いの外広がってしまってありがたいやら戦々恐々するやらです。
他のPさん方も書いてくださったり、ご紹介いただいたり、まとめつくったりしたので
それはまた後程別記事で上げようと思うのですが、
ひとまず私も小噺など書きましたので、そっちを先に置いておこうかなと思います。

アイマス1時間SS、7/30実施分参加ですー。日を跨いで3時間掛かったけどね!
テーマは「風鈴」「若鮎」にて。続きからどうぞ。

『追い水』

硝子の音が頼り無げにりりと鳴る。

 縁側に下げた風鈴は確かにその役目を果たしてはいたが、その音は涼やかと呼ぶにはおよそ遠く、じっとりと蒸し暑い昼下がりの空気が庭から茶の間へと吹き込むのを余計に意識させる。山間に立つこの町で、この様に湿った夏は珍しい事ではあったが、長い時間の中ではそういう年もあるものだ。
 暑さに堪えかねてぐったりと畳に身を投げ出して両手を大の字に広げたまま、千早は枕元で団扇を振るあずさを見上げた。今日は流石に暑いのか、あるいは終始目に入れ続ける千早達を気遣ってか、白地に淡い紫の蝶を染めた浴衣を選び、艶のある黒髪は頭頂部高くまとめてこざっぱりとした次第である。やはり汗一つかきもせず、涼しげな表情をして暑いわねぇなどと呟きながらぱたぱたと仰ぎ、そしてはたと千早に目を止め、今度は団扇を千早に向けた。
 「大丈夫?」
 「……はぁ」
 大丈夫だ、と頷こうとしたのだが、そこまでの気力もなく、千早は返事の代わりにもなりそうにない溜息を吐いた。正直こうしてだらしなく四肢を広げる様を開けっ広げに見せてしまっている事に気付かない程、千早も連日の暑さに消耗しきっていた。ぺたりと伏せた犬の両耳に、だらりと伸びる尻尾が見ていて気の毒な程である。普段の生真面目で神経質、所作一つ取っても隙のない千早からはとても想像出来ぬ有様に、あずさは可哀想になって眉を顰めた。
 「本当に、暑いものねぇ。どうしましょう」
 顎に手を遣り何やら思案するあずさを、千早は熱で呆ける頭でぼんやりと見上げていた。

 幾ら茶の間の中にまで日が入らないとはいえ、じわりじわりと熱気は部屋を満たし、千早の頭もすっかり暑さに茹って朦朧とし始めた頃。
 あずさがぽんと手を打った。
 「鮎」
 「あゆ?」
 暫くその意味が分からずに、呆けたままの千早は半ば反射的に鸚鵡返しになる。
 「お夕飯は鮎がいいわ、うん、そうしましょう」
 「はぁ」
 三度繰り返して、漸く千早はそれが川魚の名である事を思い出した。
 しかし鮎などあっただろうか。台所の食材を思い出して数えてみるも、この暑さである。保存の利く漬物やら乾物こそ蓄えはあっても、生魚などあろう筈もない。この様な山奥で魚売りが来るのを期待してみても、土台無理な話だ。そもそもそういう文化もないのだし、物好きなお節介もこの暑さには勝てやしない。無論、この直射日光降りしきる中、あずさを外に行かせるわけにはいかない。
 つまり、捕りに行け、と。そう言いたいのだろう。
 このひとは私が逆らえない事を知っていてそれを言うのだ。敵わない。千早は大きく溜息を吐いた。
 「……夕方まで待ってもらえませんか?」
 「遅くなったら帰りが心配だから、今行ってらっしゃい」
 仕方なく、ひどく熱くて重い頭を抱えて、千早は鈍々と立ち上がった。ふらつく身体を壁で支えながら、無理矢理に玄関に向かう。漆喰の感触が手の平に食い込んで痛い。
 「大丈夫よ」
 茶の間から千早を見送るあずさの声は軽やかで。よくもまぁ、そんな事が言えたものだと恨めしげに一度振り返ると、にっこりと笑って、

          ・・・・・・・・・・・・
 「ね、貴音ちゃん。川なんて直ぐそこでしょう」
 同時に千早の背中から、ふふっと笑う声が聞こえた。

     ・・・・・・・・・    ・・・・・・・・・・・・・
 「ええ、直ぐに着きましょう。きっと冷たくて心地良いものですよ」
 丁度外出から戻った貴音が、額の汗を拭いながら玄関先に立っていた。

*

 逃げ水、というのは知っている。
 水があると思って近づいても実際にそこには無く、もっと遠くに見える現象の事だ。そうして近づいても近付いても水場には辿り着けないまま更に遠くへと逃げられ続ける。蜃気楼の一種だという。
 今回はそれとは全くの間逆で。
 千早の記憶が正しければ、町から一番近い所でも、外れから山に入って二十分程は歩かなければいけないはずだった。特に今日の千早はすっかりやられて動作は緩慢、おまけに午後の強い日差しが容赦なく体力を奪う。だから三十分、もしかすると小一時間くらいは鈍々と足を動かし続ける羽目になるのではないかと覚悟して家を出て坂道を下った、筈だった。
 「着きましたよ」
 先を歩く貴音がからからと笑った。気が付いた時には目の前にゆうゆうとした流れがあって。周囲を取り囲む木々の隙間から差し込む木漏れ日が揺れる水面に映り、ちらちらと反射して眩しい。川底の砂利を叩くせせらぎの音と相まって、冷えた水の空気が全身に伝わってくる。
 「……こんなに近かったかしら」
 千早は思わず首を傾げた。考えていたよりも全く歩いた気がしないからだ。実際、ものの数分も歩いていないのではないか、そう感じる程度にはほんの一瞬の出来事で。もしかしたら暑さに浮かされたまま夢遊病のように歩いてしまったのかとも不安になったが、既に水場の空気で熱も退き始め、体には活力が戻り始めていた。もう心配もないだろう。ふるふると頭ごと耳を振って、千早は大きく息を吸い込んだ。冷えて湿った、山独特のひんやりとした空気が胸いっぱいに入り込む。意識にかかった靄の様なものがすっきりと晴れていく感覚。
 「ですから、わたくしが言ったでしょう」
 貴音が得意げに笑って見せた。毎度決まりの文句。ああ、そうかと千早は漸く合点した。あずさが「大丈夫」と言ったのはこの事だったのだろう。
 貴音が言うなら近くにあるのだし、貴音が言うなら冷えて心地良いのだ。そういう風に出来ている。
 「……有難う、助かったわ」
 普段はなかなか言い難い事だが、今日ばかりは千早も素直に頭を垂れた。ここ数日の日中の暑さは確かに耐え難いものだったし、かといって千早一人で小一時間の道程は途中で行き倒れかねなかった。それ以前に、外出のままならないあずさを置いて一人涼みに出掛けようなど、千早の性根が許す筈もなく。

 ――つまり、いろいろを噛み合わせた結果が、鮎。

 「良いのですよ。礼なら後であずさにお言いなさい」
 言いながら、貴音が袖を捲り上げて、きゅっと結ぶ。見ればもう草履と足袋も脱ぎ捨て、裸足で砂利を踏んでいる。準備は万全だ。丁寧に両の足首を回して、水に入る支度をすっかり整えている。
 「捕らねばなりませんね、鮎」
 千早も大きく頷いた。
 「――ええ!」

 そうして、二人揃って川に飛び込んだ。脛が隠れるか、隠れないかという程の量ではあったが、やはり冷たい水に足を浸していると、同じ陽に照らされていても全く心持ちが違う。水の中に小魚やら虫やらを見つけてはいちいち歓声を上げ、両の手で水を掬っては互いに掛ける。
 飛沫が目に入りそうになって、千早は思わず目を閉じた。その途端、今度は足元の小石に躓いてよろめく。危ない、と手を伸ばした貴音も、足をもつれさせて、濡れた石に滑らせた。ざぶん、と大きな音と水柱を立てて、二人は川の半ばに尻餅を着いた。
 「あ……」
 転んだままの恰好で、二人は思わず顔を見合わせた。すっかり水も滴る濡れ鼠である。互いの有様に、どちらともなく笑いが漏れた。
 「ふふ……」
 「あはは、ははははっ!」
 大して何が可笑しい訳でもないのだが、何となく、笑ってしまった。こんなに天気が良くて長閑な午後なのだから、愉しまなければ損というものだ。我が家の主人もそれを望んでいるだろう。千早はそう結論し、頷いた。
 着物はたっぷりと水を吸って濡れ放題だったが、こんな暑さなら直ぐに乾いてしまうに違いない。二人はなりふり構わず、一頻り水遊びに精を出した。

*

 「只今戻りました」
 「まぁ、お帰りなさい。どうだった?」
 とっぷりと日も暮れて、辺りを暗がりが包んで、漸く戻った二人を目を輝かせて出迎えたあずさの前に差し出されたのは、『天海屋』の印が押された紙包み一つ。申し訳なさそうに差し出して、千早が目を伏せる。
 「その……探したのですが」
 「見つからなかった、というか、探すどころではなかった、というか……」
 貴音も済まなそうに俯き加減でぽつりぽつりと言う。まだ湿った着物の裾を見れば、何があったかなど一目瞭然。あずさは二人を労いつつ招き入れると、満足そうに頷いた。
 「元気が出たなら良かったわ」
 そうして、受け取った紙包みを開く。中には魚の形を模した、狐色の菓子が四つ。鰭と鰓、目の辺りに焼印が施され、見た目にも愛らしい。
 「まぁ」
 「その、代わりと言っては何ですが」
 一緒に入っていた小さな紙には、達者な筆運びで「若鮎」とあった。この菓子の名だ。少々頭の固い二人にしては上手い事を考えたものだとあずさは思ったが、紙の裏を見て納得した。
 『後で伺いますから、私の分も取っておいてくださいね   春香』
 なるほど春香の入れ知恵か。こういう可愛らしい気の回し方は春香の専売特許だ。あずさは座布団の上で小さくなって、未だ所在なさげに俯く二人を尻目に、うんうんとひとり頷いた。
 「それじゃあ、お茶でも淹れましょうか。冷えちゃったでしょう、温かい方がいいわよね」
 自分がやると慌てて席を立つ二人を制止して、あずさが鼻歌交じりに台所へ向かった。間もなくして、玄関を叩く音がする。遊びに来ましたー、と賑やかな声を張り上げる春香を、今度こそはと千早と貴音が競い合って迎えに走る。茶の間に吹き込む風も漸くその本分を取り戻したのか、運び入れる夜半の冷えた空気は、肌に心地良い。

 硝子の音が賑やかにりりと鳴った。

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Private :

No title

テーマをうまく使った楽しめる作品でした。
動画の続きとかも期待しております。

Re: No title

読んでくださってありがとうございます!
動画もまたゆるりと出せたら良いなぁと思っておりますので
その時は楽しんでいただけたら嬉しいなぁと思いますー
プロフィール

百合根(sii)

Author:百合根(sii)
あずさ・千早・貴音P。
アイマスと嘘屋と東方と
実況で生きてます。
あずちはが俺の歌姫楽園。
あずたかが俺のムーンライト伝説。
たかちはは北の白い恋人ごっこ。

近況
◆直近
(7/19)しあわせなじかん

◆参加・お手伝い
ShinyGirls!(×格無しP)
私屍(×独眼P)

◆予定
のんびり5話
嘘m@sいろいろ

自コミュ:百合根をふかしてもぐもぐ(仮)
ついった:sii1001
ぴくしぶ:sii

リンク・アンリンクフリー。
何かあればお気軽にお申し付けください。
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